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2024-05-07-Tue 07:25:05 │EDIT
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2011-02-16-Wed 14:00:52 │EDIT
2月16日の深夜1時半ごろ読了。


伊藤計劃には前から興味があったのですが、これまで触れることなく。
円城塔の同期ということでよく並べられる作家さんです。
今はお亡くなりですが……


『ハーモニー』。
文庫で見たのが初めてだったのですが単行本が元々出ていたとのことで。

未来。技術の発達による超普遍的な体調管理システム。

全人類が体調を管理され、病気にならず、『健康に』『幸福に』生きていられる時代のお話。
既にこのあらすじの時点でおぞましいですね。
誰もが一律に管理されて『調和=ハーモニー』を描き出す社会。
と、それに違和感や反抗心を抱く少女たち、少女だった主人公たち。

とにかく『健康』という言葉が恐ろしい。
『健康』とは考えられる最も手前にある『幸せ』であり、可能な限り手に入れられることに文句はないはず。
そうだろう?
そんなふうに訊かれると否定しにくい。

健康管理と独裁的な支配システムとはどこですり替わるのか、どこで交わっているのか。

管理されるということは意志を失うこと、というのは近代からの一種テーマでもありますね。
有名どころで『モダン・タイムス』とか。
あちらが資本主義に疑問を投げかけるのに対しこちらは価値観そのものを揺るがすので、なお問題との距離が近い。

そもそも『健康』とは『身体的健康 / 精神的健康 / 社会的健康』の三つからなるもの。
今作で扱われている健康という概念は、特に『精神的健康』を無視しすぎたものであるように思えます。
個人を個人として扱わない。
作中の『社会的リソース』という言葉がその最たる象徴。

病床にあった氏の胸中が慮られる。
健康とは何か?


もうひとつ、ストーリーとは別に驚嘆させられたのが文章の形式。
小説というのも結局は文字列でしかなく、そこに感情があるわけでもない、そこに何かが直接描かれているわけでもない、文字というそのものに意味はないという問題があるわけです。
それをあくまで受け入れ、客観的なまでに書き表す。
マークアップ言語による表現方法は冷たすぎるほどに冷静な印象を受けます。
もちろんそれは狙ってやっていることなのでしょうが。


過去の人々は、自分が後世にどんな扱いをされるのか一切知りようがない。
現代に生きる私たちも、その私たちがしている生活様式も、未来世界でどう扱われていようと文句は言えない。
未来から過去を見るスタイル(いわゆる『神の視点』)で普段の生活を分析されると、それが失われることへの感慨、恐怖や興味など、何かを思わざるをえないものです。
SFではよくあることですけどね。


そういった、ごく近い範囲で深く暗く何かを考えさせられる小説。
現代の、特に日本の社会の価値観様式に少しでも疑問を持ったことのある方は是非。

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2011-02-06-Sun 14:05:47 │EDIT

高校時代によく読んでいた本を再読。

SNSについて少し調べていた時に引っ掛かったのが「フリッカー」の存在。
うちの父が「フリッカー」という言葉を聞いた時嫌いと言っていた理由がなんとなくわかりました。

本編1話の長編。
主人公・鏡公彦による妹殺害の報復劇と思われる何か。

とにかく推理小説と銘打つのがやりにくいノベルス。
これは推理ではないよなあと思う。
「大」と書いてある紙を見せて「これ何て書いてある?」と訊いて、「だい」と答えたところで隠していた指をどけて「実は犬でしたー」と言ってしまうような。
盲点を突くというより死角から強襲するというか。
それでも一応最低限の情報公開はちゃんとしていたりする。

文章自体のトリックより、前にどこかで見た「動機の特殊さ」は印象的だったかもしれません。
大量殺人を行っている「突き刺しジャック」が何故そんなに人を殺すのか?
ある意味では非常に珍しい、どこか訴えるところのあるものといえるような。

再読ということで、あらすじやトリック、人物の正体などは覚えていましたが、そうなると逆に細部が気になってしまって仕方なかったでした。
伏線の張り方がなかなかうまい。
これはサスペンスとして読んだほうが読書体験としては良いのではなかろうか。

友人に話を聞く限りでも「佐藤友哉は再読すると面白い」という認識はあるようです。
鏡家サーガなんか顕著でしょうね。
逆に最近の作品はどうなんだろう。再読するほど読んでいないからなあ……

再読で気付いたのですが公彦氏18歳だと……
大学生ということはどうあっても大学1年以上ではない。
大学1年生であれだけの財力と装備を持っていたのか……そう思うとなかなかすごい。
学年としてはタメなのにあの行動力はとても真似できない。ある意味では現実性が無い。まあそこは彼の異常性というかそういうものを極端に表わしているということなのかもしれませんが。

ネタが古いような気がしたのはどうなんでしょう。まあもちろんそんなこと気にしていたらパロディは成り立たないわけですが。
前に読んだ某作家は文庫化にあたっての加筆訂正としてBGMのアーティスト変更という物凄くどうでもいい変更をしていたのでそんなことするよりよほどマシか。

ただパロディや引用が非常に多いのも事実。
文学作家やアーティストの「名前だけ」引用という抽象的なやり方は伝わる人にしか伝わらないのではないかなあというところ。ドヤ顔でやられたら激昂できるレベル。

一般には「ラストで驚かされる」と形容されるであろうものは、一歩間違えれば「ラストでブチ切れさせてくれる」という評価を得ることになる……というのが実感できる作品。
まあ鏡家サーガなんかは特に全部そうですし、それが初期の氏の特色なのだから仕方が無い。
本人もそのリスクは承知しているはず。

語彙の偏りは自分は気になりませんでしたが、人によっては「狂う」「壊れる」の連呼が許せないのだとか。
そもそもその手のアウトローな感情表現は文字に直すのが困難を極めるものですからね。
この作品の妙味はそれさえ振り切ってあくまで一個作品であると言い張るところにあるのですからそのくらい置いていってしまったほうが間違いなく気は楽。

難しい話ではない上改行や会話も多いためさらりと読めてしまうのですが、読後感はなかなか異様。
決して深くはない内容であるのに、瞬間最大風速というよりも平均的に暴風なせいで印象が残りやすい。

ただし登場人物は多い。多い上に似た者同士も多い。キャラをしっかりつかめないと何が何やらとなる可能性は比較的高め。挿絵があるわけでもないですし。
何かと色々と読者を選びますね。

勢いはありますが鈍重で、内容は薄いのに存在感は大きい。
おそらく最も評価されるべくは、これがデビュー作であるということ。
これだけ異端な小説を世に解き放ちながら登場した作家が当時どれほど意外だったかは想像に難くないでしょう。

振り切れ具合、文章技術の甘さ、ストレートすぎる表現など、さまざまな意味での佐藤友哉の原点。

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2011-02-05-Sat 04:51:18 │EDIT
2月5日午前3時40分読了。

実は2011年初読書書。
レポート用のテクストや哲学書、新書は参考部分のみ読んでいたので。
「論考」は通して読みましたが前後のおまけは読んでませんし。


難しい難しい言われている円城塔ですが、今作は比較的まともな部類だったように思えます。


『後藤さんのこと』は全6話+αの構成。
以下、各感想。


■『目次』
去年の2月の暮れに受験会場の大学の売店でこの本を見かけ、この『目次』を見て僻地にもかかわらず大ウケしてしまった覚えがあります。ちなみにその大学には落ちました。
新しいスタイルの小説というか、これは発想の勝利。ちなみに「全6話+α」の「α」の要素はおそらくこれ。
各ページを解析する目次というアイディアは漠然と私の頭の中に昔からあったので、それが顕現されているのはなんとなく嬉しかったですね。
内容は比較的抑えめ。さすがにスタイルがアレなのでストーリーのほうはぶっ飛んではいませんが、『「A」というA』の構図が苦手な方には読みにくいかも。
強烈な感情は抱きませんが、じわじわする。


■『後藤さんのこと』
表題作。
1ページで笑った。爆笑した。多色刷りの小説は見た目にもインパクトがあって楽しいですね。「刺すね。」タイムパラドックスをそんな形でぶち壊されたらたまらんわ。
読んだ限り『後藤さんの皮の性質について』が一番ノった。色をつける意味、視覚効果に訴えるという試みと、円城塔のこねくり回す理念がぴったり一致している。これはなかなか見事。その後に出てくる『まだら』もまたうまい。
落ちは酷い。いいぞもっとやれ的な意味で酷い。まあそんなのこの人のデフォルトか。

題名から佐藤探知機ゴーグルとか連想した人は十回くらい読んで憤死すればよい。


■さかしま
後で知ったのですがフランス文学でこういう作品があるそうで。

冒頭でふざけすぎ。むしろそれによる安定感なのか。「気分が悪くなったら冒頭へ」と繰り返す以上は確かに妥当な試みでしょう。
『Boy's Surface』の2話目にどことなく似ているように感じられたのは、やはり何かどこか別な空間・世界を想定しているから。それとも『Boy's Surface』の4話目にどことなく似ているように感じられたのは、その別世界を航行しているような浮遊感があったから。『self-reference ENGINE』にもこんな話があった気がします。雰囲気だけで語るなら。
この人の中にはなんとなくこういうイメージはあるのだろうなあ。

個人的には00章ラストで『01章、10章、11章』のどれかに飛べという分岐が現れた時「うわっ11章もあるのか」と思ったのが後でそれが2進法だったことに気付いた瞬間が何とも言えず爽快でした。やられた。


■考速
これは純粋に楽しかった。というのも、似たようなことを考えていた時期があったからかもしれません。

「考える速度は考える速度を抜けるか」

いや、むしろ、

「筆記と思考の速度」

こちらにまつわる話は高校時代に妄想していた覚えがあります。言葉遊び全開なのも相まって今回の中では一番好きな話。西尾維新や清涼院流水に比べてずっと綺麗で、それ以上に、どこか開き直っている感があるというのがよかった。言葉遊びは火薬であって銃でも弾丸でもない。
電車の中で一気読みした覚えがあります。これは勢いに乗って読んでしまうべき。


■The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire
打って変わってこちらはずいぶんとまあネタに走ったこと。
元ネタの把握ができない人間なのでパロディは苦手です。
こちらはそれでドヤ顔してないだけまだましか。

好きな人はどれかしら好きそう。
このごろの円城塔の悪ふざけっぷりを抽出した感じでしたね。


■ガベージコレクション
これ! 図書館で雑誌借りたのに受験で忙しくて読まずに返してしまったから悔しかったんですよね! 今回収録されててよかったです本当。

スマートなシーンにはどうしてこうもチェスが似合うのでしょうね……というか手順を逆にたどるっていうのは持ち駒が使える将棋じゃ難しそう。時間経過とともに間違いなくコマの絶対数が減っていくチェスならではということでしょうかね。ちなみに囲碁で一部分の局面を逆読みするのはよくあるようですが、明確な『王手』が無いため終局図からの逆再生は不可。

講義でエントロピーを教わっていなかったら何が何やらという感じでしたでしょうが、逆にエントロピーを知っているとそれだけで何かわくわくする話でした。
ところで時間の「逆」については私は大森荘蔵の論文の衝撃が未だ抜けません。全部読んでないのに。

題名のセンスも素敵。
ただ「ガベージ」のイメージはもっとわかりやすくてもよかったんでないかな。


■墓標天球
なんでこう円城塔作品のラストは毎回世界を巻き込む壮大な話になるかなあ。
素敵すぎる。

「時間の流れ方」の違いの話は『self-reference ENGINE』を連想せざるにはいられませんね。何度か似たようなフレーズも出てきたような?
「保存は連続的な創造」のフレーズが天啓すぎる。

立方体の展開図のような、ああいったフィギュアが出てくると驚きがより鮮明になるなあと思いました。
球体でも円でもなく循環する図ができるのは漫画版『数学ガール』上巻の虚数平面から円が出てくるのを見たときの衝撃に近かった。

SFさというのなら今回最たるもの。
「時間」を尋常でない仕方で切り貼りしているわけですからそうなるか。
ある意味『オブ・ザ・ベースボール』にも見られるような氏の原典なのか。
こういうSFは邪道はあるのでしょうが、あまりにSFらしいという意味においては間違っていません。むしろ恋愛や推理以上にネタの尽きつつあるSF業界にとってはここまでやってくれないと光が差し込まないのかも。

なんというかこれはラストに向かうにつれ明らかに鼓動が高鳴るのを感じた。
それは私の心臓でもあるしこの作品自体の脈動だったのかもしれないし、この本そのものの活力だったのかもしれない。
「階段」を使うあたり、『階段は途中で消えてしまったよ』というフレーズを思い出さずにはいられない。
羽が舞い散る様というのをここまで幻想的に描けるのは氏の作品では意外でした。
脱帽。



○総括
遊びに走ったな! というのが第一印象。そういうわけで前2作より対象の裾野は広がっていると言えるのではないでしょうか。なんて愛くるしいんだ。

SFらしさと文学らしさと氏の遊び心。
これまでは三つがぐっちゃになっていたのがだんだんと解き解され、円城塔の武器の数は結局的に増えているのだなと思いました。

どうでもいいのですがアジカン後藤氏はこれを読んでどう思うのだろう。読者はゴッチのことを想像しながら読むのは不適切ですのでやめましょう。その他著名人非著名人の後藤さんを考えながら読まないほうが身のためです。まあ小説なんてみんなそんなもんですよね。


あ、初めてまともにレビュー書いた。(

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HN:
赤鯖
年齢:
32
性別:
非公開
誕生日:
1991/10/06
職業:
大学生
自己紹介:
自分のためでない、他人のためのコミュニケーションを心掛けたら、孤立した。
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