帰省中につき書くことがないと思いきや、その帰省させているところの要因である自動車学校のことがありました。
そういうわけで、せっかくですので、入校から卒業まで、記録していきたいと思います。
今日は入校→初回の授業。
朝7時半ごろ起きる。
10分ほど二度寝して7時40分ごろようやっと起きる。
早起きするのは久々でしたが案外寝覚めはよい。
朝の連続テレビ小説を見ながら朝ごはんを食べる。
『カーネーション』は視聴率が良好であるらしいと母から聞く。
自動車学校がある場所は通っていた高校よりも少しだけ遠い程度なので、通学には自転車を用いるつもりでしたが、外は小雨。
無料の送迎バスを予約していなかったことが悔やまれました。
誰のものかわからない綺麗な傘を借りて出発。バスで最寄の地点まで行き、そこから徒歩で5分ほど。
行きのバスの中で両替をした時、私が両替をするより前に小銭排出口のところに10円玉が1枚残っていたように見えた。
気のせいかもしれません。
回収してしまったような気がします。
ほんとはいけないのですけれどね。
9時10分ほどに到着。
昨晩預かったお金を渡し、9時半の入校式を待つ。
ロビーにはもう色々な人がいて、今日入校なのですけれど、というひともちらほらといた。
もっとも、そんな丁寧な言い方はしていなかったひとが多かったです。
カルチャーショック。
9時半の5分前に指定された教室に移動。
よせばいいものを、教習原簿をぽんと置いただけで座席指定に充てていたため、しばらく私の席はどこなりやと探し回ることになる。
案の定、後続の皆様もそんなかんじでした。
私の席は一番右列の一番奥。
しかも何故か前の席のひとは欠席。
見事なまでにぼっち席でした。やったね。
入校式。
といってもそんな立派なことはしない。管理人という方がやってきて意気込みを語ってくださり、その後職員のお姉さんがやってきて配布物についてなどの細かい説明をしてくれました。
そんな程度。
姿勢を正して話を聞いているひとがどれほどいるかを観察していたのですが、まあさほどでもなしに。
そういうところでしたか。
引き続き適性検査。
心理学チックなテストを淡々とこなす。
全力でこちらのゲシュタルトを破壊しにかかる設問を「だが断る」とあしらう。
あしらいきれなかった感は強いですが。
丸がふたつ重なった図形(ベン図みたいな)の群れを見たときは正直生理的嫌悪を否めなかった。
だめなんですああいうのは。
さらに引き続き第一回の学科の時間。
そんなに難しいことはやらないという印象でした。大事そうなところにはマーカーする程度。
昼休み。
次の学科まで時間があったのでPC自習室にて効果試験に挑戦。
これは前時限までに「やっとけ、やっとけ」とさんざ言われたものでした。
当然これが初日なのですからもちろん何も教わっていないわけでしたが、何回か試しているうちにさらりと合格できてしまいました。
サインをしてくれる教官のひとに妙に褒められる。
そのまま調子に乗って仮免前摸試もやってみる。
このあたりから部屋が少し込んできていたといいますか。
私の隣にもひとが座るようになってきていました。
注意力も少々散漫になり、このごろ考えている諸々のことをぼうっと考えながらマウスを操作する。
仮免前摸試をひとつ終わらせ、ふたつめの2回目にぼんやり取り組んでいた時。
「頭わりーなお前」
という声がぼそーっと囁かれまして、顔を向けずに横目で左を見ると、いかにも軽い感じの男性がこちらをガン見していました。
……私か?
私に言ったのか、今のは?
当然のことながら初日なのですから彼とは初対面なわけです。
初対面の相手に「頭悪い」「お前」と来るか?
自動車学校はどんなバカでも卒業できる。
思い知った感があります。
私がぼうっとパソコンを操作していたために簡単な問題でいつまでも回答せずにいたためではないかと思うのですが……それにしたってそんなに他人の画面を見るのはどうなんよ。
昔を思い出してしばらく行動不能に近い状態に陥りました。そのままずるずると気付けば次の学科の時間。
お昼ごはん食べ損ねた。
次の学科の先生が不思議に明るいひとだったので救われる。
緊急車両が来たら「寄る」こと。
交差点とその付近では「避けて」「寄って」「止まる」こと。
法定速度と規制速度の違い。
空走距離、制動距離、停止距離について。
専用と優先。
いろいろやっているうちに時間が過ぎます。大学の講義と違って50分しかなく、90分に慣れてしまっているとあっけないくらい。
間髪いれずに技能。
一回目なのでシミュレータで機器の位置を把握する。
昔から車の構造が好きだった私にはそれほど苦でもなかったでした。
それが終わると一時間ほど空きができたので、食べ損ねたお昼を求めに一度外へ。
お昼といっても既にこの時点で午後5時半でしたが。
高校が近所にあるのでそちらの方面へ。
高校裏にある小さな中華料理屋さんに入る。
久し振りに入る。
2年ぶり。
メニューは変わっておらず(むしろ増えていた)、いつものメニューを頼む。
白湯麺、350円。
この値段なのにこってりしすぎという素敵なラーメン。
本当は炒飯か肉まんも食べたかったのですが、夕食が近いことも想定して我慢。
お店の様子が変わっていなくてほっとする。
自動車学校まで戻る道のりは素敵な散歩道になりました。
涼しげな夕闇に小気味良いリズムが乗った情景はとても好きです。
視界の中で一番主張していたのがラブホだったりするのもまた一興。
それから本日最後の授業。技能。
ついさっきシミュレータの監督をしていただいた先生にまた出会う。
外はすっかり暗くなっていましたが、コースへ。
前方、後方、車体下を確認。
乗り込むと前方・左方向3.5メートルまでしか見えない。
そこから見えない部分は乗る前に確認するしかない。
なんやかや、特に前触れもなく当たり前のように
「じゃ、発進して」
といわれる。
ブレーキを離すと、オートマ車はそれだけで前進を始める。
クリープ現象。
アクセルを踏むとがっくんと加速し、慌ててブレーキを踏み込むとがったんと全身が揺れる。
ペダルのデリケートさを知る。
オンオフを切り替えるばかりのエフェクターとは訳が違います。
しばらく走っていると、1、2回溝に落ち込んだものの、それなりにスムーズにコースを周回できるようになりました。
30分もすると先生が世間話を振ってきたり。
「普段何しているの?」
「大学生ですね。上京して」
「家はどのへん?」
「下宿しているのはほとんど埼玉県みたいな東京で、大学は目白あたりです」
「目白っていうとどのへん?」
「池袋と新宿の間ですね」
「目黒、っていうのも山手線であるよね」
「ありますね」
「あれはどこ? 新宿と渋谷の間?」
「ええと、新宿で、渋谷で、その下ですね」
「よくわからんねえ」
「そうですよね」
「東京なんか新宿くらいしか行かないしなあ、池袋なんか行かないし、六本木なんか行ってみたいけど」
「まあそうなりますよね」
この街だと皆さんそんなかんじなのだと思います。
私なんぞは浮世離れ気味なのだろうな。
「それで大学では何やってるの」
「文学部の、哲学科ですね。思想などです」
「そういうの好きなの?」
「そうですね」
「そういうところって、就職とか、どういうところに行くのかね」
「就職よりまず院を目指したいと思っているのですが……そうですね、出版とか」
「出版ねえ。最近どうなの。あの、電子書籍っていうの? アイフォンとか」
「ありますねー、苦手です」
「若者の本離れっていうしね。私はでもね、こう、ちゃんと形を持って『本』! っていうほうが好きだよ」
「そうですよね」
「栞とか、なに、ブックマーク? ああいうのの綺麗なやつとか使うんだよ」
奇しくも前回記事と同じ意見が得られて勝手に感動する。
「あとね、最近のマイ・ブームなのだけど、ブックカバー? あれを自分で、綺麗な紙を使って、作るんだよ」
「あ、それいいですよね。旅先とかお土産とかの包装紙を使って作ると綺麗になりますよ」
「ああ、そうだよねえ」
本という物質的な媒介形態について、誰かここまで話をしたことはあまりなかったので、楽しかったです。
それは、薄暗闇の中で、ゆっくりと落ち着いた車の中で、一対一で話していたからこそなのかもしれない。
やはり会話はふたりでするのがよいです。
そして夜の車内は昔から好きです。
ほとんど誰も乗っていない夜中の電車やバスがとても好きです。
「でも、本を読むと、それだけ演技力が高まるっていうらしいよ。芦田愛菜ちゃんだっけ? あの子もすごく読むっていうし」
「聞いたことがあります。どんな本を読むんでしょうね。へんに難しい本を読まないのも大事かもしれませんし。いわゆる名作モノって文章や内容が難しかったりしますから、かえって子供向けではなかったりする」
「小学生に本を読ませると、読む前と比べて表現力が高まったっていう実験みたいなのもあるらしいね」
むしろ最近は本離れが一周して読書に向かう人が増えているのではないか、という気がします。
何が原因というわけでもありませんが、なんとなく。
「前の、芥川賞とか」
「あれは円城塔さんのほうは以前からずっと好きだったんですが、田中さんに話題食われっぱなしですね」
「ああ、おかしなインタビューしていたからねえ」
「でもあのひとはなかなか簡潔な物言いをするひとのようで、おもしろい方らしいですよ」
「小説家っていうのはやっぱり、長い目で見ないとわからないところがあるかなあ」
言葉を書く難しさ。
文章を書く難しさ。
その難しいが故に解答はさまざまあり、その多様性が個性を許し、各個人の書く文章には差異化がなされる。
その、色々な人が色々なことを書く、という、そのことが、とても不思議でおもしろいことなのではないか、と、ふと思ったりします。
ずっとそのような話をしながら、初めての運転はとてもスムーズにこなすことができました。
前の車と詰まってしまっても「案外冷静だね」と言われたりして。
コース内には様々なレベルのひとが走っており、しかしそれらをあまり気にしないことが大事なのだといいます。
気付けば不思議な時間の流れをしていたと思います。
長く、しかしもっと長くあってもよかったと思うような時間で第一回の技能教習は終了しました。
先生は名刺をくれたのですが、これが義務的なものだったり誰に対してもやっていることだったりという可能性はすべて踏まえた上で、「また本の話でも」と言いながら渡してくれたことはとても嬉しいことでした。
午後7時30分に本日の日程が終了。
バス停まで坂を上って歩き、バスに乗って帰宅。
帰り道にひしめくたくさんの車の、その運転手さんそれぞれが免許を獲得しているのだと思うと、どことなく圧迫されるような気分になりました。
これだけたくさんのひとが当たり前のようにしていることを自分は今懇切丁寧に叩き込まれている。
新しい呼吸の方法を教えてもらっているような感覚です。
新しいことを始めるということはつまりそういうことなのだろうと思います。
―――
○余談
家に帰ったら弟と妹が「カービィのエアライド」で爆走していました。
なんとなく一日中車校にいたことを引っ張られているような気がしてしまった。
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